弁護士を通じて遺留分侵害額請求を行うケース
当事務所に持ち込まれるご相続のほとんどが、いわゆる「円満な」ご相続です。しかし、一部には相続人間に信頼関係がなく、紛争になっているケースもあります。
札幌市中央区のAさんが死亡し、その相続人は子どもであるBとCの二人のみです。Aさんは生前にBさんと中央区内で同居しており、生活はBさんに頼りっぱなしでした。
そのような状況ですから、Aは生前に公正証書で遺言書を作成していました。内容は「私が有する一切の財産は、長男であるBに相続させる」というものでした。この遺言書に基づき、Bは札幌市中央区の自宅不動産の名義変更を行い、北洋銀行と北海道銀行のAが有した預貯金の払い戻しも行っていました。そしてAの相続開始を知ってから10月以内に、管轄の札幌中税務署に相続税の申告を行い、納税もしました。当然、「Aの財産はすべてBが相続する」という内容の申告です。
Aの死後、この遺言の内容を知ってCは憤慨しました。自分だってAの子供であるという点はBと同じはずです。なのに、自分には何らの財産も遺してくれないと言われてしまった……。これはCとしてはショックです。
Cは弁護士Xを代理人として、Bに対して遺留分侵害額請求を行い、一定の金銭を取得することに成功しました。
そのような状況ですから、Aは生前に公正証書で遺言書を作成していました。内容は「私が有する一切の財産は、長男であるBに相続させる」というものでした。この遺言書に基づき、Bは札幌市中央区の自宅不動産の名義変更を行い、北洋銀行と北海道銀行のAが有した預貯金の払い戻しも行っていました。そしてAの相続開始を知ってから10月以内に、管轄の札幌中税務署に相続税の申告を行い、納税もしました。当然、「Aの財産はすべてBが相続する」という内容の申告です。
Aの死後、この遺言の内容を知ってCは憤慨しました。自分だってAの子供であるという点はBと同じはずです。なのに、自分には何らの財産も遺してくれないと言われてしまった……。これはCとしてはショックです。
Cは弁護士Xを代理人として、Bに対して遺留分侵害額請求を行い、一定の金銭を取得することに成功しました。
遺留分は相続人のなかの特定の者(配偶者、子供、父母など)に認められた権利で、いわば「最低保証の法定相続分」のようなものです。遺留分権利者は遺留分を侵害している者に対し金銭を請求する権利があるとされており、Cはその権利を行使し、金銭を取得することができたのです。
相続税申告の「後処理」
遺留分侵害額請求が行われたとなると、相続税申告の「後処理」が問題となります。Aさんのケースにおいては、Bさんが行った相続税の申告は「すべてをBが取得する」という内容に基づいて行ったことから、Bさんは全遺産にかかる相続税を納税しています。しかし遺留分侵害額請求がされたことによって、代償分割のように、実質的に遺産の一部は遺留分権利者であるCも取得したと言えます。結局のところ、遺留分侵害額請求を行ったCについては「私も全遺産のうち〇〇の割合は財産を取得したので相続税を払います」という申告が必要です。もちろん、その分の相続税額の納付も必要であることは言うまでもないでしょう。
遺留分侵害額請求を受けたBについては、「私は全財産を取得したつもりで申告を行い納税もしましたが、取得したのは〇〇の割合にすぎませんでしたので、払いすぎた相続税額を返してください」という還付の請求(更正の請求)を行う必要があります。
税務調査になりやすい相続税申告
遺留分侵害額の合意ができたとしても、Cが困ったのは「相続税の申告」です。相続税の申告を行うとなると、遺産の調査をした上で各種財産の評価を行わなければなりません。Cは長年Aと別居していたことから、Aの財産については弁護士が調べてくれた大まかなところしか知らず、細かな内容までは把握できていませんでした。
このような状況でCが相続税申告を行い、Aが還付の請求を行った場合は、税務調査の対象になりやすいとよく言われます。その理由はいくつかありますが、まず「還付」の請求をすると、当然税務署の担当者が内容を再度チェックすることになることが挙げられます。それだけでなく、BとCが別々に申告を行うことで、申告書の数値に齟齬が生じ、税務署としては「どちらの数値を信じたらよいのか」ということが分からず、調査に発展します。
申告書等閲覧サービスの対象外
Cとしては、適正な相続税申告を行いたいことから、Bが提出した相続税の申告書を見たいと思うのは当然のことでしょう。被相続人と近しい立場だったBが作成した相続税申告書だからこそ、Aの細かな財産まで網羅された正しい申告内容になっている可能性が高いからです。CとBの関係では、CがBに対して「以前に提出した相続税申告書を見せて欲しい」といったところで拒絶されてしまいます。BとしてはCに力を貸す理由はなく、むしろ自分で財産調査を行って申告すべし、と考えるのは無理のないことです。また、BにはもしかしたらCには知られたくない情報が申告書(の主に第11表)に載っている可能性がありますから、この点からも安易にCに申告書を見せたくないと思ってしまうでしょう。
ところで「申告書等閲覧サービス」という制度をご存知でしょうか。税務署に提出された申告書等の書類を閲覧できるという大変にありがたい制度なのですが、閲覧できる者は、基本的には「納税者本人」です。たとえば自分が過去に提出した所得税の申告書や相続税の申告書であれば閲覧することが可能です。
一方で他人が提出した申告書類については閲覧することはできません。Bが以前に提出した相続税の申告書はあくまで「Bの分」としての「Bの」申告です。CはBが提出した相続税の申告書を閲覧することはできないのです。
※裁判所を通じ、文書提出命令を出してもらって他の相続人が税務署に提出した相続税の申告書を提出させることができるのではないか、と思うかもいるでしょう。しかしながら、これも現実的に無理だとされています。
相続税理士としての考察
相続税を専門とする当税理士事務所にご相談を持ち込んだのは、実際にはCではなくCの代理人弁護士です。相続税申告を上手く通過するよい方法がないか、というご相談でした。弁護士は、次の各事項を述べていました。Cによる細かな遺産の調査は不可能
税務調査の対象になることは煩わしいため、可能であれば避けたい
税務調査の対象になることはCのみならずBも避けたいと考えているはず
そもそもですが、本件のようなケースで税務調査の対象になる可能性が高いのは、それぞれの相続人が提出する申告書の数値が異なるからです。申告書の数値が異なっていない場合は、(遺留分を請求される側は還付の請求をしているため税務調査の対象になる可能性はやはりあるものの)、税務調査の対象に選ばれる可能性が「極めて高い」とは言えません。
そこで、数値を(正しい数値になっているであろうBの申告書に)合わせるということであれば、B側から相続税申告書の第1表だけ提供を受ける、という方法があろうかと思います。第1表には課税価格、相続税の総額が記載されています。Bからこの第1表の提供を受ければ、Cとしては課税価格と相続税の総額はBの申告書と同じにできます。
おそらくBがCに知らせたくないのは相続財産の細かな明細である「第11表」であると考えられます。第1表のみの提供であれば、第11表の内容は読み取ることができませんので、Bとしても提供しやすいばかりか、Cが相続税申告において課税価格と相続税の総額をあわせてくれるのであれば、税務調査のリスクは低減されるというメリットがあるでしょう、
自らの力で財産調査を尽くすことができないCが作った申告書の内容はツッコミどころがあるものになるでしょうが、調査官の立場から見れば、Bが算出した課税価格と相続税の総額とCの申告書が一致しており、なおかつ相続税の総額がきちんと納税がされていたら、調査は不要と考える調査官がいてもおかしくはありません。
このように、遺留分の侵害が問題となって相続人が別々に相続税申告を行う場合でも、工夫次第で税務調査の可能性を下げることができると考えられます。




