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妻名義の「へそくち貯金」を名義預金とした事案<解決事例>

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「へそくり貯金」が存在したケース

札幌相続相談所で取り扱った事例で、いわゆる「へそくり貯金」があったケースがあります。事例をご紹介すると次のとおりです。

札幌市白石区のAさんが死亡しました。Aさんの相続人は配偶者のBとAB間の子のCのみです。Aはもともと北海道庁に勤める公務員でした。配偶者であるBさんはいわゆる専業主婦であり、長年Aさんの所得で家族の生活費を賄っていました。

北海道の職員といえば、全道転勤です。Aさんも若い頃は全道各地、様々なところに転勤になっていました。転勤の際、BはCの教育のこともあって札幌市白石区の自宅に留まり、Aさんが単身赴任をしていました。

BはAの通帳のキャッシュカードを預かり、Aの給与が振り込まれる度に生活に必要なお金を引き出していました。Aさんの給与手取り額はだいたい38万円程度であり、Bさんは毎月35万円を引き出していました。その35万円を引き出して生活費に使い、残ったお金が毎月数万円ありましたが、Bさんは自分名義の口座に入金していました。

Aさんは財産についてはBに任せっきりであり、Bに「余ったお金があるなら使っていい」とも言っていました。

Aさんが亡くなったとき、専業主婦であり所得がほとんどないはずのBさんの口座に3000万円の預金がありました。


上記の事例において、Bさん名義の3000万円の預金はどのように扱うべきでしょうか。


実質的に誰のお金なのか

大切なのは、Bさん名義のお金が実質的に誰のお金なのか、という点です。実質的にAのお金だというのであれば、当該預金は「名義預金」としてAの相続税申告において遺産として課税対象になります。一方でBのお金なのであれば、当該預金はAの遺産を構成しません。

ところで誰の名義なのか、という点は非常に重要な要素です。しかしながら東京地裁平成20年10月17日判決においては、次の2点の指摘がされています。

  • 夫が自己の財産を、自己の扶養する妻名義の預貯金当の形態で保有するのも珍しいことではないというのが公知の事実である

  • 妻名義であることの一事をもって妻の所有であると断ずることはできない


  • 若干の補足をすると、令和の夫婦像と昭和~平成時代の夫婦の違いもあります。令和であれば夫婦共働きというのが一般的であり、共働きであれば夫婦の財布も別々となっていることが多いでしょう。一方で昭和~平成時代を生きてきた夫婦は、夫が一家の大黒柱であり、妻がその大黒柱を支える専業主婦であることが多いといえます。この昭和~平成時代の夫婦像を前提とすると、裁判所のいうように、「夫のお金が妻名義の口座に入っていることは珍しくないし、妻の名義の口座だとしても夫のお金だと言えることもある」という話になります。


    口頭による贈与契約があったら?

    税務調査があった場合に、札幌市白石区のAさんのような件であれば、税務署は「B名義の預金はAさんの財産なのではないか」という疑いを抱くことになります。修正申告を促され、3000万円の全額を遺産としてAさんの申告書に反映することになりそうです……。

    ここで納税者(Bさん)の主張としては「生前贈与が成立していた」ということです。贈与契約は書面による必要はありませんので、口頭の「あげる・もらう」の約束で成立します。特にBさんの場合は、毎月の生活費の余りについて「好きにしていい」とAさんから言われていたのですから、このやり取りをもって贈与が成立している(つまり3000万円はBさんの固有財産になっているのだから相続税の課税対象にならない)と主張するのです。

    ここは非常に難しいところです。

    平成19年4月11日の裁決によると、次のようにコメントされています。

  • 仮に被相続人が妻に生活費として処分を任せて渡していた金員があり、生活費の余剰分は自由に使ってよいと言われていたとしても、渡された生活費の法的性質は夫婦共同生活の基金である


  • 余剰を妻名義の預貯金等としたとしても、その法的性格は失われない


  • 結局のところ、余剰分について都度贈与契約書を作成したり、贈与税の申告などを行っていたら別でしょうが、口頭の「あまりは好きに使ってよい」というやり取りであれば、贈与とは言い切れない、ということです。

    私見ですが、裁決の際に考慮されたのは、「支配権の完全移転の有無」だと思われます。第三者にたとえば100万円を贈与した場合は、そのお金は贈与者の手元を離れ、完全に受贈者のものとなります。贈与者が「やっぱり自分のために使う」と後日言い出しても、それは通用しません。一方で夫婦間であれば、「あまりは好きに使っていい」と言ったところで、夫婦のお金が足りなくなった場合は、夫は「あのお金があっただろう、あれを使おう」となり、妻もそれに応じるに違いありません。つまり支配権が完全に移転したとはいえず、夫は夫婦の生活のために妻名義の預金を使えると考えられるのです。


    全額を名義預金扱いにしないのは税理士の腕

    では、3000万円の全額が名義預金となり、修正申告で3000万円にかかる相続税額を支払う必要がある、と考えるのは早計です。税理士のなかにはそのように処理を進めてしまう者もいるでしょうが、税法の専門家であれば、もっと深く検討しなければなりません。

    検討すべきは「3000万円全額が名義預金ではなく、一部は妻の固有財産であるはず」ということです。ホームレスの方や極度の貧困に陥った方でない限り、固有財産が何もないという方はほとんどいません。専業主婦だって同じで、「自分のもの」といえる預金が3000万円のなかに含まれているはずです。

    たとえば年金収入等が妻にあったかもしれません。主婦をしていたとしても、パート収入が妻にあったかもしれません。妻は宝くじにあたったかもしれませんし、親族からお金を相続したのかもしれません。これらから構成された部分の預金は、真実として妻の固有財産です。

    札幌相続相談所が扱った事例では、妻が親族から数年前に相続したお金が300万円あり、その300万円も3000万円の口座に入っていたことが判明しました。この300万円はBの固有財産として、Aの相続税申告から除外すべきと考えます。また、AとBの生涯年収を予想し、2700万円のうちの一部はBの固有財産としてAの遺産から除外するのが相当と考え、そのように処理しました。

    このような処理をする以上は、真実を確かめるべく、Bから様々な書類を見せていただき、いざ税務調査があった場合に説明できるようにしておく必要があります。そのような用意はたしかに大変ですが、相続税を専門に扱う税理士として、当然に行うべき処理だと考えています。札幌で相続税にお困りの方は札幌相続相談所にお気軽にご相談ください。初回ご相談は無料です。