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遺言書の内容に納得できない
札幌で相続税の相談に対応していると、遺言書があるというケースに多く接します。被相続人が生前に、公正証書や自筆証書の形式で、自らの意思を記していることがあるのです。相続税の相談に応じていると、たとえば次のようなケースがあります。
札幌市清田区のAの相続人は、Aの子供であるBとCの二人です。Aは遺言書で、Aが死亡した際は、Aが有する札幌市清田区の土地、北洋銀行札幌西支店の銀行口座にある預金、北海道銀行札幌駅支店にある銀行口座にある預金を含むいっさいの財産をBに与える、という趣旨の遺言書を作成していました。
BとCの間には争いはなく、今後も良好な関係を継続したいと考えたBとCは、遺言書の内容を知りつつも、Aの遺産をBとCの話し合いで分けたい(つまり遺産分割協議で分けたい)と考えていました。有効な遺言書がある場合においても、その遺言書と異なる内容の遺産分割協議は可能なのでしょうか。
遺言書と異なる遺産分割協議は可能
結論を述べると、遺言書と異なる遺産分割協議を行うことは可能です。BとCが話し合って、Aの遺産の一部をCも相続することもできるのです。ただしそれには一定の条件があります。
上記のうち、実務上あまり問題とならない条件は3でしょう。遺言者は、遺言で遺産分割を禁ずる定めを盛り込むことが可能です(民法908条)。しかし相続税の実務上は、遺言書で遺産分割を禁じている内容の遺言書というのは、そもそも見かけることはほとんどありません。
上記3以外の要件についても、以下において札幌の相続税専門税理士が解説しましょう。
相続人の全員が遺言書の存在と内容を知っていること
遺言書と異なる遺産分割協議を行うのであれば、相続人の全員がその遺言書の存在と内容を知った上で行う必要があるといえます。次のようなケースには要注意です。
遺言書ですべての財産は長男に与えるとされているにもかかわらず、二男が遺言書の存在と内容を隠して遺産分割協議を行って財産を相続する。
二男からすると「バレない」とでも思っているのでしょうが、遺言書の「隠匿」にあたる行為を行うことは、相続欠格事由に該当し、相続人としての地位を失ってしまうことになります(民法第891条)。
どのような行為が「隠匿」にあたるかは個々のケースによって異なりますが、遺言書があるにもかかわらずその存在を相続人間で共有しなければ、遺言書があると後日知られた場合には、相続人間で法的トラブルに発展することは目に見えています。
遺言書があるのであれば、まずはその存在と内容を相続人全員に開示した上で遺産分割協議を行うことを心がけましょう。
受遺者がいるなら、受遺者の同意も必要
相続人以外に受遺者がいるのであれば、遺言と異なる遺産分割協議を行うことは、その受遺者の同意も必須といえます。遺言と異なる遺産分割協議を行うということは、受遺者の権利を奪ってしまうことになるため、当然といえば当然です。受遺者の同意というのは、遺贈を放棄してもらうことを意味します。
特定遺贈の場合
たとえば「札幌市南区の土地は〇〇に遺贈する」とされている遺言がある場合、それは特定遺贈です(遺贈の対象物が特定されています)。特定遺贈を放棄したい場合は、相続人(及び遺言執行者)に放棄したい旨を伝えることで、遺贈の放棄が可能です。相続税の実務に携わる立場で言うと、後日のトラブルを回避するために、内容証明郵便で伝えることが得策だといえます。
包括遺贈の場合
たとえば「私の財産の3分の1を〇〇に遺贈する」というように、一定割合を示して遺贈するのが包括遺贈です。包括遺贈を受けた人は、ある意味において相続人と同じ立場だといえます。そのため、包括遺贈の放棄は相続の放棄と同様に、自己のために相続の開始があったことを知った日から3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所(被相続人が札幌市内に住んでいた人なら札幌家庭裁判所)に、申述書を提出する形で行います。
遺言執行者がいる場合、その遺言執行者が同意していること
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現する権利と義務を負う者であり、遺言書の内容を実現すべく、具体的な手続きを行う者を意味します。たとえば遺言書で「札幌市北区の土地は長男に~」とされていたら札幌市北区の土地の名義変更を行います。遺言書で「北洋銀行札幌西支店の預金口座は払い戻して二男に~」とされていたら、銀行に出向いて口座の解約払い戻しを行い、払戻金を二男に引き渡します。民法第1013条によると、「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」と定められています。つまり遺言執行者がいるにもかかわらず、遺言の内容と存在を無視して相続人間で遺産を相続して処分してしまうような行為は認められない、ということです。
遺言書とは異なる内容の遺産分割協議ができるか否かについて「遺言執行者がいる場合、その遺言執行者が同意していること」という要件を軽視する考えも世の中にはないわけではありません。しかしながら当税理士事務所は相続税の専門事務所であり、相続の専門家を自負している以上は民法第1013条の趣旨は尊重されるべきだと考えています。
遺言と異なる遺産分割協議は、原則として「贈与」にならないが要注意
以上の要件を満たすことで、遺言と異なる遺産分割協議を行うことは可能です。そして遺言と異なる内容の遺産分割協議に基づいて相続税申告を行った場合、原則として贈与税の課税の心配もありません。たとえば札幌市在住の甲さんが遺言書で、「札幌市厚別区の土地と札幌市清田区の土地は長男に~」という遺言書があるにもかかわらず、相続人間の遺産分割協議において「札幌市清田区の土地は長女の取得としよう」と話し合った場合、その札幌市清田区の土地を長男がいったん相続し、長女に贈与したとは(原則として)扱われません。
被相続人から長男に札幌市厚別区の土地が、長女に札幌市清田区の土地がそれぞれ移転し、その内容の相続税申告と相続税の納税をすれば問題になることはないのです。
ただし注意しなければいけないこともあります。
長男と長女が遺言書の内容で相続税申告を行った後に「やはり札幌市清田区の土地は長女が相続することにしよう」としたところで、それは相続が終わった後の「贈与」の問題と解され、贈与税が課税される可能性があります。
また、遺言書に基づいて長男名義に札幌市清田区の土地の名義変更が行われている場合についても、後日「清田の土地は長女が相続したことにしよう」といったとしたら、やはり相続の後の贈与の問題として処理されてしまう可能性があります。
遺言書と異なる遺産分割協議を行う場合は、慎重な判断が必要になるケースもあります。不安を感じる場合は、お早めに相続税申告を専門に扱う税理士に相談することをおすすめします。




